- 2023.01.10
国の方針に反する市職員向け「持ち家手当」の増設
千葉県内市町村実施0件 全国9割が廃止の中、佐倉市復活の「なぜ?」
2022年8月定例会
【記事の要約】
「市職員の迅速な災害時参集」を目的として、佐倉市内の持ち家に在住する市職員に対して「持ち家手当(年間36,000円)」を新設する条例案を審議した。委員会等の審議の結果、本条例には以下のような批判があることが整理された。
- 国の方針に反する条例案でありながら、他市との比較において佐倉市に「持ち家手当を復活させるべき」特段の特殊事情はないこと。
- 市が目的とする「職員の市内への居住を促進する」ことは、過去の他市事例から実現が見込めない、つまり効果がないこと。
- 災害発生現場をもとに考えれば、「現場から遠い市内在住職員」より、「現場近くに住む他市在住職員」の方が迅速に参集できるケースが多々あるため、「市内在住職員」に絞った手当は的を外している。
- 佐倉市の「避難所配備計画」では、避難所に参集する市内在住職員と市外在住職員の比率は概ね6:4となっている。仮に市内在住職員のモチベーションがこの手当によりアップするとしても、その一方で市外在住職員のモチベーションが低下することとなれば、「持ち家手当」分の新たな負担に見合った効果は期待できない。
- 事務処理誤りで4億2,500万円もの財政的損失を発生させたこと等により、市の財政を再建するために佐倉市全体が一丸となるべきこの時期に、根拠も薄弱な手当を、一部の市職員に限定する形で増設することを認めるわけにはいかない。
- 以上より、本案の住居手当部分について、年間約900万円の税金を使うことに、市民に対する説明がつかない。
他方、さくら会等議員団の討論では、「激甚化する災害に備え、職員の市内居住を推進する持ち家手当は必要」とし、整理された批判にこたえることのないまま賛成した。 結果、千葉県内では佐倉市のみ、国の方針に反する「市職員向け持ち家手当」が復活した。 (以下本編)
2022年8月議会に、佐倉市内の持ち家に在住する市職員に対して「持ち家手当(年間36,000円)」を新設する条例案が上程されました。
本条例改定は「市職員の迅速な災害時参集」のため、すぐに被災地や災害対策本部に駆け付けられる職員を増やすことを目的に、西田市長から提案されました。
私は、この持ち家手当について反対しました。その主たる理由は
- 国の方針に反する条例案でありながら、他市との比較において佐倉市に「持ち家手当を復活させるべき」特段の特殊事情はないことが明らかになった。
- 市が目的とする「職員の市内への居住を促進する」ことは、過去の他市事例から実現が見込めない、つまり効果がないことが証明されている。
- 事務処理誤りで4億2,500万円もの財政的損失を発生させたこと等により、市の財政を再建するために佐倉市全体が一丸となるべきこの時期に、根拠も薄弱な手当を、一部の市職員に限定する形で増設することを認めるわけにはいかない。
以上より、本案の住居手当部分について、年間約900万円の税金を使うことに、市民に対する説明がつかないことによります。
国の方針に反する条例
国の方針に反するという点については、朝日新聞の先行報道から、千葉日報、毎日新聞、日本経済新聞、千葉テレビにおける報道等にあったとおり、平成21年に総務省から発出された「職員向け持ち家手当につき、廃止を基本とした見直しを行うこと」という趣旨の通達があったことによります。本通達の結果、国内の9割以上の市町村が職員向け持ち家手当をやめ、現在では千葉県のすべての市町村が本制度を廃止しています。
国が公務員の持ち家手当の廃止を決定した理由は、以下二つに集約されます。
- 持ち家という個人資産に対して税金で手当するのは、公務員の手当としては問題がある。
- 公務員に対する持ち家手当は、つきつめると「家の修繕費の補助」という理屈以外説明がつかない。しかし、民間で家の修繕費を理由に持ち家手当を実施している事業者はほとんどない。
確かに、私がかつて勤めていた会社にも「持ち家手当」に該当する手当はありませんでした。また、人事院の調査結果を総合的にみると、「家の修繕費の補助」を目的とした持ち家手当を実施している民間事業者は、今から20年前にすでに6%以下だった、という結果になっています。
以上から考えれば、国の方針はまったく説得的ですから、もし佐倉市で「職員向け持ち家手当」を復活させるのであれば、他市町との比較における「佐倉市だけの特殊事情」がなければ不可能である、というのが私の見解です。
しかし、結論からすればそのような「佐倉市だけの特殊事情」は、議会審議では一切説明はありませんでした。
大阪府箕面市の「覚悟」と佐倉市の「覚悟のなさ」
私の調査では、総務省からの通達に従いいったん持ち家手当を廃止した後、再び復活させた自治体は全国で二つです。そのうち、佐倉市と同じ一般市は大阪府箕面市の1市のみです(このような基礎調査は、佐倉市が率先して実施し議案上程の際に議会に説明するべきですが、担当部署はこの趣旨の調査すらしていませんでした)。
持ち家手当を復活させた当時、箕面市長であった倉田哲郎氏は、佐倉市のように「単に持ち家手当を復活」させて終えるようなことはしませんでした。
倉田氏は人事制度と給与制度を大きく変える公務員制度改革の一環として、持ち家手当に該当する内容を含む住居手当制度を導入したのです。
本制度は、彼の一貫した大方針のもと、人事制度改革を断行する公約を掲げ選挙の洗礼を受けたのちに、制度改革のプロジェクトチームで内容を練り上げ、2014年の6月に同市議会で議案をはかり、可決されました。
その内容は、現在も箕面市の公式サイトに掲出されている「箕面市の人事・給与構造改革の概要」と題された資料にしっかりまとめられ、公表されています。内容を読めば、住居手当の改革が新しい制度の中にどのような思想で組み込まれているかを知ることができます。
箕面市の手当部分の是非については議論のあるところですが、佐倉市で今回提示された原案と違い、加算措置や災害時の制度面の裏付け等により「市内居住促進」に非常に有利な制度設計になっていることがわかります。
公務員の手当は、民間と比較すればとても手厚いものです。その手当の増設を含む給与改革を、プロジェクトチームによる入念な検討もなく、制度を復活させた他市事例の研究もなく、公約に掲げ民意を問う覚悟すらない中、西田市長は突然本議会で上程しました。
財政が厳しい状況の中、職員の手当の増設を含む給与制度改革は、このように軽々に実施できるものでは断じてありません。
市内居住促進に「効果がない」ことの証明
兵庫県尼崎市では、市内居住促進のため、佐倉市の倍額の月額6,000円で市内持ち家手当を継続しましたが効果が無かったため、以降「職員の新規市内転入」に的を絞った居住促進策に切り替えています。
面白いのは、手当の効果を訴えるべき職員組合が「たかが 6,000 円の差で市内への転入の効果を期待することが間違いである。」と述べていることです。
住居手当の見直し等について 尼崎市役所総務局 人事管理室給与担当(PDF資料)
尼崎市の半額である3,000円の手当しかない佐倉市で、職員の市内居住が促進される道理はありません。
なお、佐倉市と同様、市内と市外の賃貸手当に差を設け、その差分で捻出した予算で市内在住職員向けの持ち家手当を実施している杉戸町でも、市内居住促進効果があったとするデータは提示できないとのことです。
以上より、本条例案に書かれた住宅手当部分の目的に対して、効果が期待できないのは明確です。
以上をもとに、私は議会本会議で「なぜ持ち家手当を復活させてはならないか」という文脈で説明しました。そのうえで、持ち家手当を含む職員手当を白紙にする修正案を提出しさえした。
(髙橋とみお議員討論:1時間28分34秒から)
しかし、本件について、私が上記趣旨の説明をしたにもかかわらず「さくら会等議員団」からの質疑は一切ないまま、私の修正動議は否決され、佐倉市職員向け持ち家手当を含む条例原案が可決されました。
「さくら会等議員団」の「活躍」により他市町にも波及のおそれ
なお、この「職員向け持ち家手当」は、消防やごみ処理など、佐倉市と周辺の市町が共同で事業にあたる「一部事務組合」にも波及しています。この「一部事務組合」には、市や町の議員が「組合議会」の議員を兼任するのですが、その兼任議員のほとんどが「さくら会等議員団」によって占められており、また議員報酬も別途支払われています。
もちろん、一部事務組合の議会では、「さくら会等議員団」は全員「職員向け持ち家手当」に賛成し、この手当の成立に「寄与」しています。
もし、この「市職員向け持ち家手当」が千葉県の他市に波及し、国の改革が滞るようなことがあれば、それは佐倉市と佐倉市議会の責任だと考えます。「責任会派」の責任の取り方を、今後も是非注視してください。
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