- 2021.08.20
防災と消防団③:消防団への寄付に関する論点
前回の論考で、我が国の消防団について「全国的に(付帯条件なく)寄付を廃止する」、「寄付の在り方を見直す」、「団員報酬を実情にあったものにし、寄付を廃止する」、「消防団員制度を廃止する」、「現状維持」という5つの議論の枠組みがある旨整理しました。
今回の原稿では、それぞれの意見について検討します。
前回: 防災と消防団②:消防団と寄付
全国的に寄付を廃止する
なんの付帯条件もなく、とにかく「消防団に対する寄付の廃止」をするという方向性は、このままいけば主流なるのではないかと思います。
法律の建付けも、判例もその流れを支持していると言わざるをえません。また、全国で次々に「消防団に対する寄付行為の禁止条例」が制定されている流れもあります。
しかし、その方向に舵を切ることは、消防団員の成り手の減少が止まらない状況において、さらに地域の防災・消防体制の弱体化に拍車をかけることにつながります。
前回の論考で述べた通り、世帯当たりの過剰な金額の寄付、強制性、行きすぎた慰労用途、透明性の低い使途等の問題ははらむものの、「防災の共助体制の紐帯」ともいうべき寄付そのものを取りやめることには、私は反対の立場です。
寄付の在り方を見直す
私はこの立場です。
他方、上記で述べたような「消防団に対する寄付」に関する問題は多くあるのも確かです。
そこで、私としては
- 年間あたりの団員に対する妥当な寄付金の上限の設定
- 寄付に関する任意性確保
- 集めた寄付金の分配方法の整理
- 寄付金の用途の透明性確保
- 消防団の公務外の貢献に対する対価の整理
以上の議論を整理したうえで、消防団を「寄付の禁止」の適用除外とする立法をすることが必要だと考えています。
上記に関する現時点での私案の概要は、今後の論考で述べます。
団員報酬を実情にあったものにし、寄付を廃止する
この方法は、私が実施したヒアリングの過程において、市民の方からも現役の団員の方からも多数いただいたご意見です。
確かに、団員報酬の原資は税金ですから、この方法が最も合理的なのかもしれません。
他方、この方法をとる場合、「では、妥当な団員報酬とはいくらなのか?」という議論が必要になります。
金額が上がれば、当然ボランティアという色彩は薄まります。また現実問題として、その原資をどう捻出するか、という課題もあります。
消防団員は約81万人です。一人の地方交付税算入額を少し上げただけで、かかる予算は膨大なものになりますから、果たして議論で出た結論の通りの予算が捻出できるのか、という点が争点になるでしょう。
なお、消防庁は本年4月、「消防団員の報酬等の基準の策定等について」という文書を発出し、報酬の適正化を前に進めようとしています。本件の内容を見る限り、現在消防団がもっている「ボランティア的な性格」を保持しつつ、報酬の支払い方法を適正化する方向であるように読めます。
消防庁:【PDF資料】消防団員の報酬等の基準の策定等について
なお、私がヒアリングした中で、「報酬の適正化」とは別の議論として、「慰労の意味の金額」分を補足した報酬を支払う、という方法についても議論がありました。
例えば、年に2回一人当たり4千円から5千円程度の「地域の情報交換を兼ねた宴会」の予算分を追加して支払う、という考え方です。
この考え方でいくと、仮に一回の宴会を5千円と設定したとしても
【団員数】81万人×【宴会費】(5千円×2回)=81億円
なので、国家予算としてはある程度「検討可能な数字」といえるのではないでしょうか。
とはいえ、非常勤とはいえ公務員の「宴会予算」を税金として設定する、ということは、相当な議論を重ね、国民への説明を丁寧に果たすなど、慎重にすすめる必要があるでしょう。
私としては、前例にはないこのような税金の使い方を含め、本件については柔軟な議論をすべきであろうと思っています。
次回原稿では、残りの「消防団員制度を廃止する」、「現状維持」について検討します。
防災と消防団①:岐路に立つ消防団システム
防災と消防団②:消防団と寄付
防災と消防団③:消防団への寄付に関する論点
防災と消防団④:消防団への寄付に関する論点
防災と消防団⑤:消防団への寄付を存続するための試案
防災と消防団⑥:消防団への寄付を存続するための試案
防災と消防団⑦:消防団への寄付に関する法的整理
防災と消防団⑧:改善を阻む地方議員
防災と消防団⑨:公金横領の横行
防災と消防団⑩:公金横領の一類型
防災と消防団⑪:公金不正と消防団の弱体化
防災と消防団⑫:公金不正の改善を阻む3つの力
防災と消防団⑬:地下に潜る横領と逮捕(前編)
防災と消防団⑭:地下に潜る横領と逮捕(後編)
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