- 2021.02.16
前編:草ぶえの丘等指定管理者の「否決」からひも解く「佐倉市議会という病」
年間1千4百万円もの市税損失と失われた佐倉市民の「笑顔」の顛末
佐倉市の北、西印旛沼のほとりの里山の上に、「佐倉草ぶえの丘(以下「草ぶえの丘」とする)」はあります。
佐倉市の豊かな自然を存分に楽しむことができるこのレクリエーション施設は、2006年から2016年までの10年間、「予算を最小限に抑え、より楽しい工夫やイベントが盛り込まれた施設」とするため、指定管理者制度と呼ばれる民間事業者のノウハウを利用する運営手法がとられていました。
しかし、予算の最小化もなされ、運営も軌道に乗っていた流れを断ち切るように、2016年佐倉市議会は、民間事業者である指定管理者を選考した審査結果を「否決」する不可解な議決を断行しました。結果、本施設は佐倉市の直営で運営されることになり、今にいたります。
しかし当初懸念された通り、市の直営により、指定管理者に任せるより最低でも年間約1千3百万円も多くの赤字が発生するなどしたため、2020年2月「草ぶえの丘」等の周辺施設をあわせ、再度指定管理者に運営を任せる提案が佐倉市議会に上程され、議会も大いに後押しする形で制度導入が決定しました。
しかし、本件に前向きであったはずの佐倉市議会は、またしても審査員により厳正に行われた「指定管理者の選定審査の結果」を否決してしまいました。
2016年と昨年の「二つの議決」は、ともにアメニス社が選定され、山万グループが落選しているという図式であり、その審査結果を佐倉市議会が「否決」するという議決行為まで同じという、極めて不可解な共通点をもつ結果となりました。
この事案を紐解きながら、現在佐倉市が抱えていると「私が考える」、佐倉市議会という病について説明します。
佐倉市議会11月定例会で、草ぶえの丘や、バーベキュー場やテニスコートがあるサンセットヒルズの指定管理者の選定が否決されました。
この結果は、控えめに言って、市の予算や人材戦略に大きな「悪い影響」を及ぼします。また、私たち佐倉市民にとっても、当施設で楽しめたはずの魅力的なイベントや、サービスの向上といった利益を奪う結果です。
本案を否決した議員たちは、この否決が意味する「市民の不利益」に対する説明責任を、今後果たしていく必要があるでしょう。
まずは、佐倉市が実施しようとしていた「草ぶえの丘などの指定管理者」の指定とは何だったのかという点を、過去を振り返る形でお話します。
なお、ここからしばらくは過去の経緯の話ですので、「2020年の11月議会の件だけ知りたい」という方は、本編の下段にある「2016年の亡霊のような2020年の否決」からお読みください。
草ぶえの丘の管理者の変遷
草ぶえの丘は、「緑豊かな自然の中で農業体験や生き物とのふれあいを通じて、子どもたちに豊かな人間性を育んでほしいと願い、昭和54年に開園いたしました。」と、市の公式サイトに書かれています。現地に行ったことがある方ならおわかりかと思いますが、アスレチック、陶芸体験教室、キャンプ場など、子どもが思い切り走り回って遊べる素晴らしいレクリエーション施設です。子どものころ、できたての草ぶえの丘で宿泊し、竹とんぼを作ってクラスメイトと飛ばして遊んだことをよく覚えています。
この施設は、1979年設立から2005年まで、自然休養村公社が運営をしていました。
その後2006年、佐倉市では民間のサービスやノウハウを活用できる指定管理者制度を使い、本施設を運営することにしました。
指定管理者制度というのは、簡単に言えば公の施設の運営管理を民間に代行してもらおうというもので、こういったレクリエーション施設の他、昨今では道路、水道や公園等でも当制度を導入する自治体もあります。
例えば水道事業など、運営を間違えれば市民生活に重大な影響を及ぼす事業については、この制度の功罪について活発な議論がなされています。また、そもそも公の施設を民間に任せること自体に否定的な共産党などの政党は、指定管理者関連の議案は佐倉市では、今までのところすべて反対の立場をとっています。
私は、何でもかんでも指定管理者で、というのは乱暴だと思う一方、草ぶえの丘のようなレクリエーション施設は、佐倉市直営より民間に任せたほうがサービスは確実にあがりますし、予算も少なくて済む。さらに、限られた市職員の人材戦略を考えた時、子ども関連事業や福祉、あるいは今後のデジタル化を見据えた情報システム関連部門などに人員を厚くする必要がある観点からも、同施設に6名もの職員を配置する余裕はないと考えます。同施設は指定管理者等の制度を利用し、民間に任せるべきです。
そのあたりの制度論については、本筋ではないのでここまでとし、先に進めます。
さて、草ぶえの丘は、2006年から2016年までの10年間、指定管理者により運営されていました。指定管理者として選ばれた運営事業者を時系列で表します。
- 2006年~2008年:山万グループ
- 2009年~2013年:山万グループ
- 2014年~2016年:アメニス・プラネット社(以下「アメニス社」)
そして、2016年に指定管理者選定審査を実施し、審査の結果アメニス社が選定(山万グループが次点で落選)されましたが、同年11月議会で否決され、佐倉市直営となり今にいたります。
否決されたときの賛否表はこちらです(2017年2月1日「佐倉市議会だより」)。
なお、2016年当時は、私は議員ではなかったため、この賛否表には当然に名前が書かれておりません。
当時の議会だよりで、主にさくら会が否決理由について述べています。内容を読むと、議会の否決理由としては「無理筋」です。その理由を説明します。
2016年のさくら会や公明党などによる「無理筋」
市は、施設を指定管理者に任せたい場合、予算要求の折に「この施設の〇年間の運営を、上限額×××万円で指定管理にしたいので、予算審議してください」という内容について議会にはかっています。そこで議会が「審議しました。この条件で指定管理者にまかせていいですよ」となって初めて、指定管理者選定の入札なり、企画競争なりの段取りが始まります。
もし、議会が指定管理導入の際にモノを言っておく必要がある場合は、市から事前に「この条件でいいですか?」と聞かれたときに、「いいですよ。ただし、〇〇という観点から、××の点について気を付けてくださいね」と言っておかなければなりません。具体的には、指定管理に係る予算や条例の内容を審査する委員会の付帯意見や、本会議における討論において、などが考えられます。
当たり前ですが、議員は全知全能の神ではありませんし、絶対公平な立場を貫けるわけでもありません。その意味で、指定管理者選定審査については議員ではなく、極力公平公正な審査をすべく選定された審査員が行います。審査員は、専門家、学識経験者、公募市民などから選ばれます。
さて、議会が付帯意見なく「指定管理者導入OK」といった施設で、審査員により厳正な審査が行われた場合、議員はその結果について否決する行為は抑制的である必要があります。
否決できるのは、例えば入札不正がみとめられる場合、管理者の能力等に著しい問題があることが発覚した場合(犯罪行為の発覚、破産しかけている状態の発覚、等)、入札仕様に決定的な欠落がある場合(議会があげた付帯意見の無視、法的な欠落、等)と解されます。
もし、ちょっと気に入らないから否決、という議会の振る舞いが許されるならば、原理的には議会多数派が推す事業者が落札できるまで永遠に否決できてしまうからです。そうなると、「厳正な審査」はほとんど意味をなさなくなりますし、業者側にも「議会多数派を抱き込むモチベーション」が発生し、それが贈賄などの不正の温床になってしまう可能性もあります。
他方、2016年の指定管理者選定に関する議決では、草ぶえの丘のみならず、市民公益サポートセンター、志津コミュニティセンター、サンセットヒルズなど、主要な施設の指定管理者選定結果を、佐倉市議会はほぼ根こそぎ否決してしまいました。
2016年の議会でおきたこと
ここで、2016年におきたことを、本論考に関係する部分に的を絞っておさらいしておきます。
2016年の草ぶえの丘、及びサンセットヒルズの指定管理者制度導入に関する議会審議は、同年の3月に行われた予算審査特別委員会、及び経済環境常任委員会で行われました。
当時の議事録を読むと、上記二つの施設について、指定管理者の「公募及び5年間の管理業務の協定を締結するための期間及びその限度額を設定」したいので、審議をお願いします、と市が議会になげかけています。この「市からのなげかけ」に対して、委員から特に異論は出ず、委員会でも本会議でもすんなり可決しています。
その後、6月定例会の総務常任委員会でも、市から指定管理者の選定に関して進捗状況の報告がありましたが、議員から発言はありませんでした。
つまり、草ぶえの丘とサンセットヒルズの指定管理者選定について、佐倉市から「こんな条件で公募していいですか?」と聞かれた佐倉市議会は「いいですよ」と明確に言っているわけです。
しかし、同年の11月定例会で、佐倉市議会は審査結果を突然否決します。この議案を審議した総務常任委員会や経済環境常任委員会では、議員が唐突に「指定管理者導入に問題あり」という論陣を張っています。そういう制度導入の可否については、2月議会でいうべきであって、このタイミングではありません。「議員さんたち、2月議会でやっていいって言ったでしょ?」という話です。つまり、ここで否決側にまわったほとんどの議員は、議員の役割を大きく踏み越えて、横車を押してでも「No」と言うべき何らかの理由があったとしか思えないのです。
結果、2016年11月定例会の本会議最終日、佐倉市議会は草ぶえの丘とサンセットヒルズをはじめとする多くの施設について、審査で選ばれた指定管理者を否決しました。
当時の議会だよりを読むと、さくら会が否決理由を述べています。
草ぶえの丘とサンセットヒルズに関する否決理由は、主に3つ上げられています。
- ①委託費の増額。
- ②審査項目の配点比重の変更(経費縮減の配点が低くなり、施策の推進等が高くなっている点)。
- ③草ぶえの丘とサンセットヒルズは、印旛沼周辺の観光の中心地となることから、施設がもつ効果を最大化するために、二つの施設を(別々の管理者ではなく)一体で委託業者に任せるべきところ、そうなっていない。
まず、③については、2月議会の審議結果を踏まえるならば、完全な言いがかりです。もし草ぶえの丘とサンセットヒルズを「一体で委託業者に任せるべき」という課題意識があるならば、審議の場である同年2月の予算委員会や本会議の場で、その指摘をしておく必要がありますが、先述のとおりその点について議員は一切発言をしていない。
「①委託費の増額」については、サンセットヒルズではコミュニティールームやシャワールームの整備がなされ、佐倉草ぶえの丘では調理加工施設や直売所、滞在型シェアハウスの整備等、新規管理施設が増加することから、増額になるのは当たり前であることがわかります。もし増額がダメなのであれば、そもそも新規施設そのものに反対していなければ筋が通らない。
次に、②の審査項目の配点比重の変更は、施設の運用などの企画性の配点があがり、経費面の配点がさがった、という点を問題としていますが、これは施設運営の戦略的な観点から審査委員の同意をもとに決定され、公募と同時に一般公開される透明性が高い項目です。この点を「入札仕様の決定的な欠落」とするには、文字通り「無理筋」という他ありません。
以上のような「こじつけとも思える」理由付けにより、2016年に草ぶえの丘をはじめとする複数の施設が、市の直営となったのです。時代に逆行した「市民の利益を損なう」結論であったと考えます。
2016年の亡霊のような2020年の否決
2016年11月議会にて、アメニス社が指定管理者となる直前で、佐倉市議会により否決された経緯を紹介しました。
そこから、佐倉市の草ぶえの丘をはじめとする「指定管理を否決された施設」は、市の直営で運営されることになりました。
しかし、市の直営となって以降、2019年の決算で当該施設の収入と支出の差し引きで年間約8千万円の赤字となるなどの状態であったこともあり、改めて指定管理者に任せようという機運が高まったのです。ちなみに、2016年に否決されたときの指定管理者の年間運営費の限度額が約6千7百万円ですから、議会が否決したことで単年度最低でも1千3百万円分、赤字が膨れ上がっていることがわかります。このお金は、皆さんの税金です。
ここで改めて草ぶえの丘とサンセットヒルズを指定管理者に任せるメリットをまとめます。
- 草ぶえの丘の運営に携わる市の職員6名を、より優先度の高い事業にあてがうことができる人事戦略上のメリット(6名といえば、佐倉市規模の役所でいえば、一つの班を構成できる人数です)。
- 民間のノウハウを活用することで見込めるサービスや楽しさ演出の向上により、市民レクリエーションと交流人口の拡大が見込める点。
- 年間8千万円の赤字を低く抑えることができる点。
以上が、本件が可決された場合の、佐倉市民が享受できると期待されるメリットです。
そこで、本件に関する佐倉市議会の審議は、以下のように順調に推移します。
- 2020年2月議会で両施設の運営を指定管理者とする条例改定を審議し、可決。
- 2020年6月議会で指定管理の期間を7年間とする議案を審議し、可決。
特に、ポイントは6月議会の「指定管理者を7年間にする審議」です。通常、指定管理者の委託期間は3年から5年程度ですが、これを佐倉市が7年間に延長した理由は「近年の気象災害の激化や新型コロナウイルス感染症などにより、将来予測が困難な状況であるため、施設の安定的な経営戦略を立てにくいことから、短期間では民間のノウハウを最大限に発揮した事業運営が難しいため」というものでした。
思い返していただきたいのは、2020年6月といえばまだまだ新型コロナウイルスの蔓延がおさまらず、世界全体が騒然としていた状況でした。つまり、本件を審議していたのは「コロナ禍真っただ中」だったということ。その意味で、本件を審議した経済常任委員会のメンバーは、「そういう理由ならば、それがいいだろう」という雰囲気で原案可決しましたし、本会議でもそのように推移しました。
さらに、2020年の11月議会では、草ぶえの丘とサンセットヒルズの回遊性を高めるなどの観点から、両施設をまとめて一つの指定管理者に委託できるよう仕様を決め、改めて指定管理者を選定する方式で審査されました。つまり、2016年の議会だよりでさくら会が指摘した内容に沿った形で、選定が行われたわけです。
しかし11月議会では、「さくら会、公明党、自由民主さくら」の17名の議員と、そもそも指定管理者制度に反対している共産党、新社会党議員の3名により、またしても指定管理者の選定が「否決」されたのです。「元々指定管理者制度に反対」というなら、私とは相いれないもののそれなりに筋が通った立場の表明ではありますが、制度には賛成だが結果には反対する、というなら市民にとって説得的な理由がなければいけません。
2016年と今回で共通しているのは、どちらの審査結果も「アメニス社が選定され、山万グループが次点で落選している」という図式であり、かつその結果を否決するというさくら会や公明党を中心とする市議会多数派の行為があることです。私が本項のタイトルを「2016年の亡霊のような」としたのは、まさにその符合についてです。
後編では、2020年の佐倉市議会の否決理由に関する問題点の指摘をもとに、本議決により佐倉市民が失った利益などについてみていきます。
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