- 2021.06.19
佐倉市上別所の産業廃棄物の不法投棄と宇田議員の一般質問について
◆宇田議員の一般質問
佐倉市議会6月定例会において、「上別所の産業廃棄物の不法投棄事案」について、宇田議員が一般質問をした。宇田議員は、昨年11月定例会から、本件について連続して合計3回の一般質問を行った。
その要旨は
- 佐倉市には、いわゆる迷惑防止条例があり、その15条に廃棄物について「土地所有者等に対し不適正な管理の是正を要請すること」とあるので、上別所の件も市として産業廃棄物を不法投棄した業者に是正要請をせよ
- また、条例で佐倉市の責任範囲を産業廃棄物にまで拡大し、佐倉市が責任をもて
というものだ。
字面を追うと、なんとなく「その通りだな」と思わないではないが、これは非常に問題のある要求であり、議員が公に表明する言論としては危険ですらある。行政からの再三にわたる説明を聞いているにも関わらず、確信犯的に過去三度同趣旨の一般質問を繰り返しているため、ここで問題点を指摘しておく。
◆行政ごとの所管範囲の前提
例えば、振り込め詐欺の捜査、取り締まりから逮捕などを含む権限を、佐倉市にも付与したとしよう。
もちろん、警察官職務執行法を元に警察権を執行できるのは現行法上警察しかあり得ないが、思考実験として「振り込め詐欺だけは佐倉市も取り締まることができる」とした場合どうなるか。
まず、役所内にまったく知見のない「警察」部門を新設する。さらに、全国の振り込め詐欺の情報は機微情報も含めすべて警察に集約されているため、自力でそれら情報を集め、佐倉市の振り込め詐欺の分析、捜査を進める必要がある。もちろん、捜査情報は秘匿事項であるため「振り込め詐欺」に関する警察との連携はできなくなる。捜査も逮捕も警察とバッティングがおき、警察との縄張り争いから、犯人を取り逃がすケースが多発する。
つまり、現場は大混乱になる。
一事が万事その通りであるから、行政というのはその所管範囲を厳密に法律によって定められている。
さて、廃棄物には、主に家庭などから出る生ごみやプラスチックゴミなどの「一般廃棄物」と、事業者から出る金属くずや廃油などの「産業廃棄物」がある。国が定める廃棄物処理法では、「一般廃棄物」を所管するのは市町村であり、「産業廃棄物」は都道府県と一部の政令市と定めている。
◆佐倉市の条例の前提は一般廃棄物
まず宇田議員が主張する「1.」については、冒頭の説明のとおり、法的に市が所管できるのは「一般廃棄物」であるから、上別所に積まれたゴミを千葉県が「産業廃棄物」と認定した時点で、佐倉市が業者に是正を要請することはできない。
もちろん、心情としては「おい、お前なんとかしろよ」と最も身近な基礎自治体に言ってもらいたいという気持ちはわかる。しかし、行政が所管していない範囲の裁量権を認めるのはとても危険な判断だ。
再度例を上げる必要もないとは思うが、法律の裏付けのない裁量権を行政に認めるということは、敷衍すれば思想信条の取り締まりを警察に認めるのと本質的には同じことだ。
「そんな大げさな話じゃないだろう」と思うかもしれないが、私たちが行政に対して「その指導や勧告の法的根拠は何だ?」と言うことができるのは、日本の行政が法律の枠組みでしか裁量権を振るえない法治国家であるが故なのだ。
さらに、そもそも条例は法律の範囲を超えることができないので説明するまでもないのだが、宇田議員がひいている佐倉市の迷惑防止条例の第6条では、「廃棄物」を「一般廃棄物」と定義していることから、第15条でいくら「廃棄物」の管理について「是正の要請」ができるとしていても、その範囲は「一般廃棄物」についてのみなのだ。
佐倉市快適な生活環境に支障となる迷惑行為の防止に関する条例
◆佐倉市は産業廃棄物を所管することができない
次に、「2.条例で佐倉市の責任範囲を産業廃棄物にまで拡大し、佐倉市が責任をもて」とする宇田議員の主張は「不可能」だ。
先に説明したとおり、今回のような不法投棄された産廃については、廃棄物処理法の第十九条の五で「その支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる」のは「都道府県知事」と書いてある。
また、行政代執行をできるのも千葉県で、佐倉市は執行権限をもたない。
ちなみに、産業廃棄物の処理についても、その一部を政令市が担うことは同法第二十四条の二に予定されているが、人口20万人にも満たない佐倉市は、政令市ではないのでそれすらできない。
そんなわけで、本件で佐倉市ができるのは、県や警察としっかり連携し、極力早い解決に向けて取り組むこと、となる。
私たち政治家の仕事は
- 地域住民の声を聴き、千葉県や警察にその声を届ける架け橋になること
- 国会議員や県議会議員に知己があれば、そういった人たちに一刻も早い解決をお願いすること
- 産廃を放置した者に産廃処理に関する支払い能力がない場合など、やむを得ない場合は千葉県に行政代執行をお願いする意見書等を提出すること
- 言論で本件の実情をしっかり伝えること
であって、権限を持ち合わせていない佐倉市を、議会で高圧的に攻め立てることでは断じてない。
宇田議員の一連の振る舞いは、本件で迷惑をこうむり、藁をもすがりたい地域住民からすれば「大変ありがたい行為」に映るし、市民からしたら「一生懸命やっているのは宇田議員だけだ」とみえる。
しかし、議員が議会で「佐倉市に権限のない措置を要請」し続けることは、市民、地域住民に誤った期待を抱かせることにつながり、行政と市民に無用な軋轢を生むことになる。
今後宇田議員が本件を議会で取り上げる場合は、上記の点をしっかり踏まえたうえでとしてもらいたい。
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