- 2021.09.13
防災と消防団⑨:公金横領の横行
前回の論考では、消防団というシステムの改善を阻害する要因として、一部の地方議会議員の振る舞いをあげました。
今回は、消防団における公金不正の話をします。
本題に入る前に、本件を「自分ごと」として考えていただくための前提を提示します。
あなたはある会社の技術職の社員で、お客様の要望に応じて客先に出かけ、機器の修理をする。その出動当たりの手当を報酬として会社から受け取る仕事をしているとします。
しかし、あなたが所属している部の部長が、部に所属する社員全員の「出動報酬」を回収し、部の宴会費用として使っている。
もしこれがあなたの身に起きたなら、部長の振る舞いは業務上横領ですから、会社に訴えて出動報酬を取り戻すべきですし、それがかなわないなら裁判に訴えるべきでしょう。
驚くべきことに、日本の消防団の多くはこのような横領行為が長年慣習化している状態にあることがわかってきました。
本連載で説明してきた通り、消防団は消防組織法に位置づけられた基礎自治体に紐づく公機関であり、消防団員は非常勤の公務員です。
その意味で、消防団の多くは、「公金横領」が常習化している可能性が高い状態にあるといえます。
それでは、より具体的に状況を確認していきましょう。
課題意識のない地方議員
まずは、消防団ともっとも近い存在である「はずの」地方政治家の問題です。
私は、政治スタンスで政治家個人を「保守」や「革新」といった言葉に押し込めることを好みませんが、特に「保守」と目されている地方政治家にその傾向は顕著であると思います。その意味では、私も「保守」に分類される傾向にあるためなんともいえない気持ちになりますが、そういう議論はひとまずおきます。
ここまでみてきた「消防団の寄付」についても、「課題意識のない議員」は「黙ってこれまで通りにしていればいいんだ」という頑なな姿勢で問題を先送りにし、課題を指摘する者に圧力を加えさえする。
しかし彼らが圧力をかけられるのは、権威にすくんでしまっている消防団員や、議決権を握られて身動きがとれなくなった行政、一部の「子分格の言いなり議員」に対してのみです。
行政とて、法や社会状況を背景とした市民の声が抗えないものになれば、議員の圧力など構っていられません。
さらに、昨今では消防団に対する寄付について、全国の市民が行政に訴訟をおこす事態が頻発しています。そうなったら議員の圧力などなんの効果もありません。
本件を調査する過程で、様々な市町村にお住まいの方々からも多数の情報をいただきましたが、そういった議員の「寄付に対する」振る舞いの一例をご紹介します。
上納金と議員の無策
その地域の消防団は上位から、本部、分団、部によって構成されており、市民からの寄付金はエリアごとに設置されている「部」が集金するシステムです。
部が集めた寄付金は、部の大きさにあわせて分団への上納金が決められている。そこで、年一回、分団に所属する部が一同に集まって、上納金を納める会合があるそうですが、そこに「消防団族議員」が必ず参加するそうです。
部の予算の使い道はある程度透明性が確保されているそうですが、分団に上納される金の使途に関してはまったくのブラックボックスであるそうで、その会合の後にあるコンパニオン付きの宴会について、分団長や議員の費用はそこから出ている可能性もあるとのことでした。
このような会合に参加している議員は、「自分が消防団を守っている」とうそぶき、消防団を票田にしているそうです。
そういった議員は、自分が「自由に使える金」があるうちはいい顔をして足しげく消防団の会合に顔を出し、コンパニオンをあげて酒を飲む。しかし、次の世代に消防団をどうつないでいくか、といった定見は一切持ち合わせていない。
ビジョンがないために、法や理論を用いた批判には答えることができず、結果「付帯条件なしの寄付廃止」の流れをとめることができない。
事態がここまでになってしまった一番の原因は、彼らの無策と、単に権力欲を満たすためにとられた長期間に及ぶ振る舞いであったにもかかわらず、消防団の上層部は「共同正犯」的な立場を握られた気分となっているために、そういう議員の言いなりになってしまっている。
そしてこの構造は、本稿の冒頭で指摘した通り、地方行政の病巣そのものとも言えるのです。
次回: 防災と消防団⑩:公金横領の一類型
防災と消防団①:岐路に立つ消防団システム
防災と消防団②:消防団と寄付
防災と消防団③:消防団への寄付に関する論点
防災と消防団④:消防団への寄付に関する論点
防災と消防団⑤:消防団への寄付を存続するための試案
防災と消防団⑥:消防団への寄付を存続するための試案
防災と消防団⑦:消防団への寄付に関する法的整理
防災と消防団⑧:改善を阻む地方議員
防災と消防団⑨:公金横領の横行
防災と消防団⑩:公金横領の一類型
防災と消防団⑪:公金不正と消防団の弱体化
防災と消防団⑫:公金不正の改善を阻む3つの力
防災と消防団⑬:地下に潜る横領と逮捕(前編)
防災と消防団⑭:地下に潜る横領と逮捕(後編)
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