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産廃問題で50億円の訴訟を抱える前田建設との「理由なき契約OK」

「夢咲くら館」建築契約に係る審議

2020年8月定例会

【記事の要約】

佐倉市新町に完成した新図書館「夢咲くら館」。これまでの図書館のイメージにはない「子育て支援」や「佐倉の歴史に関する蔵書の集積」などの特長をもつ複合施設だ。

この図書館の建築会社を決定する入札の結果が公表された直後、落札業者である前田建設が「産廃の不法投棄」で、施主から50億円の訴訟が発生したことが一斉に報道された。 建築不正は、姉歯事件など「芋づる式」に問題が発覚するケースが多い。そんな中、市民の財産を守る「最後の砦」たる議会において、さくら会等議員団による「審議なき賛成」により、50億の訴訟が提起されて間もない前田建設との「速やかな契約」が可決された。議会の役割を果たしたといえるのか?(以下本編)


2023年3月に開館予定の「夢咲くら館(以下、わかりやすいように「新図書館」とする)」の建設には、私は賛成の立場です。

本件について、私が「なぜ賛成か?」という点については、以下のページをお読みください。

他方、主に佐倉市の西側のエリアにお住まいの方からの多くから、「あまり賛成できない」、「興味がない」という言葉を多くいただいており、残念に思っています。

この図書館は、佐倉市の歴史の情報発信地という役割もあり、郷土史関連の蔵書が豊富に集められますから、佐倉市の歴史を知ることができる施設になります。また、館内には託児所も併設されている他、子育て相談所や子どもたちへの読み聞かせイベントを実施する広場もあるので、保護者の皆さまも安心して行政に子育て相談もできたり、ゆっくり本に触れあうことができたりする施設です。開館したらぜひご利用いただきたいと思います。

さて、ここでの審議は、「新図書館建設の是非」ではなく、「建設会社との契約の可否」についてでした。

「契約の可否」の争点

本来、正式な方法で正しく入札が行われ、事業者にも問題がなかった場合、議会はその結果を受け入れることになります。議会が結果を受け入れた後、執行部は入札により選定された業者と「速やかに」契約を結びます。

しかし、本件は入札により選定された前田建設工業株式会社(以下「前田建設」とする)が、廃材となった石膏ボードを建築した建物の壁内に埋め込むという「不法投棄」をし、施主から50億円もの損害賠償請求の訴訟が提起された、と報道されたのです。またこの報道は、新図書館の建築契約に関する「入札の後」に報道各社から一斉になされました。

以上の結果を受けた佐倉市議会は、前田建設と佐倉市との間に「速やかに契約を締結」するべきかどうかの判断が求められた、という事案でした。

議会最終日までの報道と経緯

ここでは、前田建設による「石膏ボード不法投棄」問題について、佐倉市議会9月定例会の最終日である9月14日の議決前に、佐倉市議会議員が報道により知りえた状況を簡単にお伝えします。

産経新聞や朝日新聞等の報道では、2004年頃に前田建設が施工した日本航空学園能登空港キャンパス(石川県輪島市)の校舎の壁に、産業廃棄物である大量の石膏ボードが埋め込まれていたことが発覚しました。

この石膏ボードは、一定の環境下では有害物質である硫化水素が発生する恐れがあるとする報道もあり、事態を重く見た施主側は、前田建設を相手に撤去費用として50億円を請求しました。

また、一部専門家が、「不法投棄が他の工事施設でも行われていた可能性は否定できない」と指摘する報道も見られました。

このような状況を受け、この学校が所在する石川県が、本事案について調査に乗り出しました。

(参考報道)

校舎壁 穴を空けたら石膏ボード 学校側が撤去費要求(2020年9月10日:朝日新聞)

「壁から石こうボード」訴訟、今度は学園が前田建設工業に50億円請求(2021年1月27日:日経クロステック)

市民の最善をなすべき「最後の砦」である議会での検討状況

以上を前提に、佐倉市議会では、同年8月定例会の最終日である9月14日に、「佐倉市と前田建設は速やかに契約を締結すべきか」を審議しました。

私としては、上記の状況下において、前田建設と「速やかに」契約締結をすることには「慎重になるべき」として、議決時には反対しました。

理由は、一言でいえば「報道内容を前提とすると、前田建設が佐倉市の新図書館をしっかり完成させることができると判断できる材料がない」ためです。

芋づる式に露見する場合が多い建築不正事案

姉歯事件の例を引くまでもなく、建築不正事件は一件の問題発覚以降「芋づる式」に他の不正が明るみに出ることが少なくありません。仮に同様の問題が今後5件見つかったとすると、単純計算で「50億円×5件=250億円」の請求が、前田建設相手に立つ可能性があります。そのような状況に陥った場合、準大手とはいえ前田建設が耐えきれるのか、私には判断ができませんでした。

例えば、前田建設と契約をする前に、当時同社が手掛けた他の物件について、同様の「産廃不法投棄事案」がなかったか調査結果を提出させるなど、「判断材料を入手する努力」を十分に果たすべきだと考えました。

また、この時前田建設と佐倉市との間で締結しようとしていた契約書では、仮に前田建設が「芋づる式に多数の建築不正が露見した」等の理由により佐倉市の新図書館建設が立ちいかなくなった場合でも、いったん契約が締結されたら解除が難しいことが、総務常任委員会における私の質疑で明らかになりました。そこで、契約の前の段階で、そのような問題が発生し佐倉市の新図書館建設が立ちいかなくなった場合には、争いなく速やかに、つまり「佐倉市にとって有利になるような」条項を追加して契約する、などの工夫は絶対に必要だ、と考えました。

さらに、本件が発覚した後、前田建設は「石膏ボードを埋め込むのは、施主の了解のもとで行ったこと」などと述べており、事実認定について施主との争いが生じています。そのような会社に大切な佐倉市の新図書館の建設を任せることができるのか、という議論もあります。仮に施主とどのような約束があったにせよ、危険な産業廃棄物を建築物に埋め込むことは行政指導の対象となる行為であり、公序良俗に反します。本件について、前田建設の対応を、もう少し時間をかけて見極める必要があるとも考えました。

以上の点を私なりに整理し、委員会審議では執行部に不明点を質疑し、そのように討論も行いました。

髙橋とみお議員討論:47分20秒から約3分)

「さくら会等議員団」による「審議なき議決」

本事案について、本会議の議決の前に仔細に検討する役割を担っている「総務常任委員会」において本件が検討されました。

本委員会の委員であった私は、この契約を「速やかに実施してよいか」という点について、主に佐倉市と前田建設とが締結する予定である契約書の「解除条項」の内容について確認しました。

本委員会では、私以外では市民ネットワークの川口議員が契約そのものの問題点について確認していました。

私と川口委員以外の本委員会の構成委員は、すべて「さくら会等議員団」でしたが、その中で本件について執行部に質問する議員は誰一人いませんでした。

2020年8月定例会総務常任委員会-09月14日-01号

結果、総務常任委員会では、さくら会等議員団の「審議なき賛成」により前田建設との「速やかな契約」が可決されました。

その後行われた本会議の場においても、「さくら会等議員団」から討論においてなんの付帯意見もないままに「契約問題なし」とされ、佐倉市議会の議決によって当該契約議案が可決しました。

「政治は結果責任」とは言うが・・・

2022年11月現在、新図書館は完成し、来年3月開館する予定です。政治とは結果責任ですから、完成した本図書館がしっかりしたものであるならば、さくら会等議員団の「速やかな契約」は正しかった、ということもできます。 しかし、2020年9月14日の時点で、さくら会等議員団の17名が、なぜ産廃の不法投棄により50億円もの訴訟を抱えた前田建設との間に「速やかな契約」を実施すべきと考えたのか、私には今もって理解できません。

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