- 2025.12.26
徳島市「賞味期限切れ備蓄食品」問題をどう捉えるか
最近、徳島市で「生活保護受給者に賞味期限切れの備蓄食品を提供していた」という報道があり、SNSを中心に大きな批判が巻き起こりました。
TBS:生活困窮者に賞味期限切れの備蓄食品を支給 “自己責任”同意書にサインも 徳島市
遠藤彰良市長は記者会見で、
「尊厳を傷つけるのはやってはいけないこと」
「無意識の差別があったと言われても仕方がない」
と述べ、対応に問題があったことを認めています。
さらに、
「個人に食品の安全性を押しつけることになった。公的機関が安全性を担保しないといけない」
と陳謝しました。
このように、行政の姿勢そのものが問われる事態となりましたが、この問題は「賞味期限切れ食品を渡した」という表面的な話にとどまりません。
むしろ、行政手続きの透明性や、支援のあり方そのものを考える契機として捉えるべきだと感じています。
賞味期限切れ食品の提供は、法的に即アウトではない
まず確認しておきたいのは、
「賞味期限切れ=危険」ではないという点です。
賞味期限は「おいしく食べられる期限」であり、期限を過ぎてもすぐに安全性が損なわれるわけではありません。
特に備蓄品は保存性が高く、レトルト食品や缶詰、乾パンなどは、期限超過後も一定期間は品質が保たれるケースが多くあります。
実際、全国の自治体では、賞味期限切れ直後の備蓄食品を福祉団体に提供する取り組みが行われています。
食品ロス削減の観点からも、一定の合理性があります。
したがって、今回の問題は「賞味期限切れ食品を渡したこと」そのものではありません。
問題の核心は“行政手続きの妥当性”にある
今回のケースで本当に問われるべきは、行政の手続きが適切だったかどうかです。
1.受給者の“自由意思”は担保されていたか
生活保護受給者は立場が弱く、断りづらい状況に置かれやすいものです。
たとえ同意書にサインがあっても、実質的に選択の余地がなかった可能性があります。
行政には、形式的同意ではなく、実質的同意を確保する責務があります。
2.安全性の判断基準は明確だったか
- 誰が安全性を判断したのか
- どの基準で判断したのか
- ガイドラインは存在したのか
- 健康被害が出た場合の備えはあったのか
これらが曖昧な場合、結果に問題がなくても「行政の姿勢」として批判されやすくなります。
備蓄品の性質を踏まえれば“合理的な活用”の余地はある
一方で、備蓄品の特性を踏まえれば、賞味期限切れ備蓄食品の活用には一定の合理性があることも事実です。
- 保存性が高い
- 品質劣化が緩やか
- 廃棄コストの削減
- 緊急支援の迅速化
こうした観点から、全国の自治体が備蓄品を福祉用途に回している実例があります。
つまり、「賞味期限切れ食品を活用する」という選択肢自体は、必ずしも否定されるべきものではないということです。
行政はどうすべきだったのか
ここが最も重要なポイントです。
1. 食品安全性の基準を明文化する
「賞味期限超過は最大○ヶ月まで」
「保存状態のチェック項目」
など、行政としての基準を持つことで説明責任が果たせます。
2. “選択肢”を用意する
- 断っても不利益がないことを明示
- 緊急小口貸付
- フードバンク紹介
こうした代替手段を提示することで、実質的な自由意思を確保できます。
3. 透明性を確保する
- 事業の目的
- 基準
- 安全性評価
これらを公開し、市民に説明することで、行政への信頼は大きく高まります。
前向きな論考としての Wedge Online の視点
Wedge Online では、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)専任教授の大山典宏氏が
- 食品ロス削減と福祉支援の両立
- フードバンクとの連携強化
- 行政手続きの透明性
など、建設的な提案を示しています。
「賞味期限切れ」食品を生活保護申請者らに支給した徳島市の対応は「何が」問題だったのか?現場のジレンマと今回の事例から学ぶべきこと
今回の件を、「良質な論考が生まれる契機になった」と前向きに捉える視点は、非常に重要です。
結論:問題は“賞味期限切れ食品”ではなく、“手続きの透明性”にある
賞味期限切れ備蓄品の活用は、現場感覚としても政策としても合理性があります。しかし、
- 安全性の判断基準
- 同意の実質性
- 手続きの透明性
これらが不十分だったために、行政への信頼が揺らぐ結果になりました。
逆に言えば、これらを整えれば、持続可能で尊厳を守る支援モデルに進化できるということです。
今回の事例は、「批判して終わり」ではなく、支援のあり方をアップデートするための重要な材料として活かすべきだと考えています。
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