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佐倉市職員の「持ち家手当」⑧残された争点

前回の論考では、災害時の早期参集を理由に、「市内在住職員への持ち家手当」を持ち出すことの「筋の悪さ」について説明しました。

(前回:佐倉市職員の「持ち家手当」復活条例とその周辺の課題⑦

本稿では、その他佐倉市が「持ち家手当復活」の理由として挙げた目的の問題点を見ていきます。言ってみれば、「残された争点」と言えますが、これらの争点に対する指摘は、もはや説明する必要もないような気がします。

市内に持ち家を持つ職員のモチベーションアップ?

私の付託時質疑に対して、西田市長は、すでに市内に持ち家を持つ職員に年間36,000円を支給することで、災害対応等における「やる気」を向上させる、という趣旨の答弁をしました。

2022年9月5日:付託時質疑に対する市長答弁【開始後4分20秒から】

「(佐倉市の持ち家に居住する職員の、災害対応等に対する)機運、意思の向上。」

私の急な質問に対して、市長が即座になした答弁なので、これが市長の本音なのだろうと腑に落ちました。

第6稿で引いた尼崎市の事例を思い出すまでもなく、公務員という極めて恵まれた給与所得者が、「月額3,000円の手当をもらえるなら佐倉市に家を買おう!」と考えるでしょうか? 誰が考えてもわかると思いますが、その可能性はありません。

しかし、執行部は、先の市長答弁のように、「この手当の本当のターゲットは『既に市内に持ち家を持つ職員』です。その目的は、災害対応におけるモチベーションアップです」などとは、口が裂けても言えません。なぜなら、災害対応には、市外在住職員も従事しているからです。

例えば、佐倉市の「避難所配備計画」では、市内在住職員と市外在住職員の比率は概ね6:4です。仮に市内在住職員のモチベーションがこの手当によりアップするとしても、その一方で市外在住職員のモチベーションが低下することとなれば、「持ち家手当」分の新たな負担に見合った効果は期待できないでしょう。また、何よりも、そもそも「モチベーションアップ」などという抽象的な目的のために支給される手当が、法令で定める「住居手当」に該当しない恐れがあるからです。

よって、どんなに説得力がないとわかっていても、執行部は、議案の公式な提案理由として、「職員の市内居住促進」を挙げざるを得なかったのです。

しかし、市長はおそらく、そのような前提について説明を受けていなかった、あるいは説明を理解できていなかったために、つい本音で「現在の既に市内に持ち家を持つ職員のモチベーションアップ」と答弁してしまった、ということなのでしょう。

持ち家に対する修繕費

2022年9月12日:総務常任委員会における質疑
佐倉市在住の市職員が居住する住宅の維持管理費の補填

これは、国が太古の昔に葬り去った理由ですので、反論するのもむなしい気持ちになります。

国が「持ち家手当はやめましょう」と言った背景には、「持ち家に対する修繕費では手当支給の理屈がつかないから」という調査結果があります。

2019年に人事院が実施した「職種別民間給与実態調査」では、「持ち家手当」を実施している民間事業者は約30%です。

人事院が実施している調査は、国家公務員の給与査定のためになされるものですから、「従業員数50名以上」という比較的「規模の大きな民間事業者」が対象です。我が国の企業構成は、中小企業が99%以上を占めていますので、日本全体の民間事業者の「持ち家手当」実施割合はこれよりもずっと低いものになるはずです。

この「約30%」という割合に、(調査の実施時期は異なりますが)下記記事に掲載されている「持ち家手当」を実施している民間事業者のうちその目的を「畳の張り替えなどの修繕費」としているもの」の割合である「19.4%」という割合を乗じると、日本全体の民間事業者の「修繕」を目的とする「持ち家手当」実施割合がわずか6%にも満たないことが推察できます。

橋下徹大阪市長が廃止方針 「持ち家手当」とは何なのか

この記事では、人事院が2003年に行った調査結果が紹介されていますが、今から20年前でもすでにこのような状況です。もし、99%を占める日本の企業全体で調査をすれば、少なくともこの半分の3%にも満たない結果がでるのではないでしょうか。

以上の通りですので、総務省は「国民に説明がつかないから地方もやめましょう」という通達を、都道府県や、佐倉市を含む市町村に発出したものと思われます。

他方、佐倉市では、上記のような具体的な調査に基づく国の「持ち家手当」廃止の動きや、これを踏まえて「地方も同様に廃止すべき」とする総務省の通達を無視して、「市内に持ち家を持つ職員の自宅の修繕費」として「持ち家手当」を復活させる、と言っているのです。

もちろん、佐倉市職員の市内の自宅の畳や壁紙だけ喰い荒らす不届きな害虫が大量発生している、というような「佐倉市の特殊事情」があるのであれば一定の説得力がありますが、少なくとも私の耳には、そのような謎の虫の発生情報は届いておりません。

このような状況で、市内在住職員の「持ち家手当」復活議案に賛成できるでしょうか?

9月28日水曜日午後1時からの佐倉市議会本会議最終日、本条例案が採決されます。

午後1時から以下のページでインターネット生中継されますので、お時間が許すようならば是非ご覧ください。

佐倉市議会本会議 ライブ映像配信

宣伝ですが、私が本条例案について「修正動議」を出して、その修正がかかった条例案について賛否をとる、という比較的珍しい事象が発生することになると思います。

次回の原稿では、せっかくの機会ですので、本条例案に関する可否の結果とあわせて、修正動議について説明します。


佐倉市職員の「持ち家手当」①議案の上程と争点の整理

佐倉市職員の「持ち家手当」②公務員制度の論点と給与

佐倉市職員の「持ち家手当」③地方公務員の手当体系と考察

佐倉市職員の「持ち家手当」④新聞報道と審議経過

佐倉市職員の「持ち家手当」⑤手当の内容と問題点

佐倉市職員の「持ち家手当」⑥「効果のない手当」である理由

佐倉市職員の「持ち家手当」⑦「効果がない」以外の問題点

佐倉市職員の「持ち家手当」⑧残された争点

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