- 2021.02.16
後編:草ぶえの丘等指定管理者の「否決」からひも解く「佐倉市議会という病」
前編では、佐倉草ぶえの丘の管理者の変遷と、その歴史が抱える「極めて不可解な」否決行為の類似性について説明しました(前編をお読みになりたい場合はこちらのテキストをクリックしてください)。
後編では、2016年に続いて、2020年の議会でまたしても「指定管理者の審査結果の否決」を断行した佐倉市議会の議決について説明します。冒頭は、否決した主要会派が述べている「理由」が、いかに筋違いなものであるか、という点について検証します。
2020年の否決理由と反論
議会多数派の各会派が、本件に関して否決する理由は
- ①コロナ禍以降の新しい生活様式について、対策を規定した採点方法をとっていない
- ②コロナ禍による急速な社会変化に伴い、観光の在り方も様変わりしていくにもかかわらず、入札の仕様はその対応がとれていない
- ③アメニス社が提示した入札金額が、次点で選定されなかった山万グループのそれより年間約1千4百万円高かったにもかかわらず、アメニス社が選定された
という3点で構成されています。それでは、順を追って「これらの指摘が筋違いである」という反論を試みたいと思います。
「コロナ禍以降の新しい生活様式」は審査要件に含まれている
「① コロナ禍以降の新しい生活様式について、対策を規定した採点方法をとっていない 」に対する反論です。
結論からいえば、本項のタイトルのとおり、「コロナ禍以降の新しい生活様式について」は審査要件に含まれているので、指摘はまったくの筋違いです。
私が公募時に入手しておいた、本件の募集要項の21ページに、「新型コロナウイルス感染症の流行状況による施設運営業務の変更について」という項目があります。そこでは、新型コロナ禍の今後の状況が不透明であるため、指定管理者の業務についてはその前提で、つまり新型コロナが大流行する可能性があることを前提で、事業計画を立案してくださいという趣旨の記述があります。
確かに審査項目としては、コロナ禍の具体的な対応策は設定されてはおりません。しかし要綱にあるとおり、新型コロナについては、今後の流行状況、ワクチンの有効性、政府や県の措置など、先行きがまったく不透明です。
そんな中、個別具体的な対応について審査項目に落とし込めば、その項目自体が陳腐化する可能性も高いことから、要綱で入札参加事業者にコロナ禍によるリスクと、それを踏まえた計画の必要性を応募事業者にしっかり伝えたうえで審査をしています。なお、この募集要項には、コロナ等不可抗力により発生しうるリスクをリスト化した「リスク分担表」まで別添し、状況変化に応じて市と指定管理者との間で協議する準備までしている念の入れようです。
さらに、先に述べたように「コロナによる直近数年の経営の見通しが立ちづらい」現状から、指定管理期間を7年に延ばした経緯もある。
加えていえば、例えばこの議案以外にも、本11月議会で南部地域福祉センターの指定管理者が選定され、議会で可決していますが、もし草ぶえの丘が「コロナ禍以降の新しい生活様式について、対策を規定した採点方法をとっていない」ことを理由に否決されるのだとすると、南部地域福祉センターの指定管理者も同様に否決されなければ筋が通らないことになります。
いずれにしても、先のとおり要綱にコロナ禍の対応についてしっかり書かれている以上、事業者には「新しい生活様式」に対応した業務を実施する義務が発生することは自明であり、市はその前提で監督・指導をすることになるため、「新しい生活様式」の不備に関する理由付けをもって、議会が否決する道理はありません。
「コロナ禍以降の観光の在り方」に対応するための体制は整えてある
「②コロナ禍による急速な社会変化に伴い、観光の在り方も様変わりしていくにもかかわらず、入札の仕様はその対応がとれていない」に対する反論です(この「観光の在り方」に関する反論文は、WEB用に新たに書き起こしたした文章となります)。
前項の審査要件の説明と重複になりますが、入札仕様は「コロナ禍が継続する」前提で練られています。
そもそも、これは入札仕様の話ですから、2020年6月に議会で「入札仕様はこれでOK」とした件を、「やっぱりダメ」という無責任なちゃぶ台返しです。しかし、その点を差し置いたとしても「コロナ禍以降の新しい観光の在り方」は、当該指定管理者が落札しても「指定管理者として当該施設を運営できる7年間」で十分対応可能なのです。その理由は、「入札の仕様でそのように定義されているから」となります。実に単純明快な話です。
というのも、指定管理者の指定というのは、指定したら一切白紙委任にするなどということはあり得ないのです。市と指定管理者は、定期的にモニタリングという会議を実施するよう、入札仕様で規定されています。その折、現状の課題などを協議し、予算の範囲内でサービスのブラッシュアップをしていきます。そんなわけで、「観光の在り方が様変わりしている」のであれば、それに対応すればよい、となります。以上です。
入札金額は議会が認めた金額範囲だった
「③アメニス社が提示した入札金額が、次点で選定されなかった山万グループのそれより年間約1千4百万円高かったにもかかわらず、アメニス社が選定された」に対する反論です。
確かにアメニス社の入札価格は山万グループのそれより年間1千4百万高い。しかし、審査結果を見ると、「公共性」や「効用発揮」など全9項目ある審査項目中、次点の山万グループがアメニス社を上回っているのは、経費に関するこの項目のみです。総合得点も、500満点中アメニス社は379.25点、次点の山万グループは345.00点と、大きく差が開いています。簡単に言えば、あくまで審査の結果を一言でいえば、「企画性や公共性などの運用面についてはすべてアメニス社が勝っていたが、費用面だけは山万グループが有利な条件を提示した」となります。
元より、入札価格は「議会で認めた」限度額が設定されていて、アメニス社をはじめすべての入札参加事業者はその価格の範囲内で提案しています。つまり、アメニス社が提示した金額は、佐倉市議会が適正と考える金額であったわけです。その中で、審査では当然に安く提示した山万グループの経費得点は採点基準に則り高得点が与えられているため、きわめてフェアな結果です。この一点をもって、もはや議会が予算的観点から「否決」するのは「無理筋」以外の何物でもないことがわかろうというものです。
また、アメニス社の提示額が高額になった理由として、アメニス社からのイベント事業の提案数が54事業であったのに対して、山万グループは10事業であったことなどについて、市役所の担当者から委員会審議の折説明がありました。
単に企画事業数が多ければよい、というものではありませんが、有効なイベントの多寡はそのまま市民など来場者のレクリエーションの多寡に直結します。来場者が安く楽しめるイベントでは、事業者側にそれなりの持ち出し予算が必要です。もし本入札が、低価格であることを第一義に求めているなら、事業者は当然イベント提案数を控える方向の提案をしますが、議会も認めた指定管理者導入の趣旨は、単に安ければよい、とするものではありませんでした。
もし、どうしても提示金額の差を問題に否決するのであれば、2020年2月、あるいは6月議会において、加点項目のうち経費面の加点比率をあげる要請をするなどの付帯意見を述べていなければいけません。
そのような前提もなしに、ただ単に提案金額の差を問題視して否決する振る舞いは、議会自らが「OK」を出した金額を否定するものであり、「後だしジャンケン」的卑劣な行為です。
本案否決により佐倉市民が失った利益について
アメニス社の指定管理を否決することにより、草笛の丘やサンセットヒルズは今後も市の直営施設として運営されることになるでしょう。もし、次点、あるいは次々点で落選した事業者を選ぶ議案が今後議会に持ち上がったとしても、今回否決した会派は先のとおり「審査仕様上、コロナ禍に対する配慮がない」ことを理由としている以上(理由としては取って付けたような苦し紛れなものであったとしても)、今回応募した事業者はすべて同じ仕様で審査を受けていることから、理論上採用することはできません。
先にお伝えしたとおり、2019年の決算を前提とすると、市が直営することで年間約8千万円の赤字が見込まれます。仮に本議案が可決され、アメニス社が指定管理者として運営する場合は年間約6千6百万円でした。つまり、佐倉市直営より1千4百万円もの予算が抑えられる計算になります。
整理すると、この議案が否決されなければ
- 年間1千4百万円の予算が軽減され
- 子どもたち等市民が受けられるサービスやイベントの量と質が向上し
- 6名もの市役所職員がより重要度の高い事業で力をふるうことができる
はずでした。それを、根こそぎ奪ったのが今回の佐倉市議会の否決です。
佐倉市議会という病とその原因
私が一年半ほど佐倉市議会議員として活動して思うのは、佐倉市は「市議会という病」を抱えている、ということ。
本件以外にも、例えば今回の議会では「委員会等の会議体の動画公開」に関する市民からの請願の否決(さくら会、公明党、自由民主さくらの議員17名による)もありました。このような、市議会の最高規範である「議会基本条例違反」の状態を黙認する、横暴とも言うべき議会の振る舞いは枚挙にいとまがありません。
論語に「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」という言葉があります。その意味は、「為政者は人民を施政に従わせればよいのであり、その道理を人民にわからせる必要はない」というものですが、民主主義政体下では単に害悪でしかない考え方です。
他方、佐倉市議会では、この言葉を基軸として動いているとしか思えない状況が多くあると考えます。それどころか、「道理」すらなく、ひたすら「知らしむべからず」という一念で、できるだけ閉じられた密室で都合よくものごとを決めていこう、という態度としか思えない事案があまりに多すぎる。
このような惨状とも言うべき佐倉市議会について、だれに責任があるのか、というと、それは他ならぬ佐倉市民である皆さんです。
「議会の質」は佐倉市民である皆さんで変えられる
地方分権社会の進展と、すさまじい勢いで進む少子高齢化による財政の圧迫等により、地方自治は「選択と集中」をしていかざるを得ない時代がすでに到来しています。
そんな中、市民の代表たる首長や議員を、「友達に頼まれたから」とか、「なんとなく感じのよさそうな人だから」とか、「近くに住んでいるから」といった理由で選ぶことができた「贅沢な時代」は、ずいぶん前に終わっています。「あの議員がいると、イベント情報が発表より早く聞けるから」なんてことを言う人もいました。情報が早く入っても、その議員の振る舞い一つで数千万、数億というお金が無駄に使われてしまうこともあるのだということを、あるいは佐倉市の行政サービスやビジョンがその議員のメンツや利権維持のために大きくゆがめられる場合があることを、是非知っておいていただきたいと思います。
本件について、もしあなたに身近な佐倉市議会議員がいるなら、「髙橋議員はこう言っているけれど、これは本当なの?」と聞いてみてください。そして、ここに書かれていることが間違いだという議員がいたら、どこが間違いなのかしっかり確認してみてください。
この論考にしたところで、私という個人が書いている以上、一つの意見というにすぎません。事実関連の記載も、過去の議事録を調べ上げたうえで書いたつもりですが、膨大な資料が相手ですから間違いだってあるかもしれない。
議員がなす情報発信を確認し、多角的に調査し、自分なりに解釈する。その日々の営為の繰り返しからでしか、信頼できる「市民の代表」を見つけ出す術はありません。
その意味で、情報発信をしない首長や議員がいるとしたら、その時点で「市民の代表」の資格はないものと考えるべきです。
きざしについて
少々辛口の論考となってしまいましたので、最後に良い話を。
私が議員になってから1年半の間に、様々な佐倉市民の方の勉強会に呼んでいただく機会がありました。
例えば、子どもの貧困問題に取り組んでいる市民グループや、大きな災害に備えて避難所運営の在り方を検討し日々研鑽を積んでいる皆さま、環境問題を自分ごととしてとらえ、次の世代のあるべき佐倉市の姿を考える高校生のグループ、障がい者の雇用を佐倉市に根付かせるため、施策検討をする商工業者の集いなど、相当な数の会に呼んでいただきました。
それらの方々にお会いして話を聴いてみると、政治的な偏りなどはなく、理性的で知識も豊富な方たちばかりでした。またすべての会合で、活発で建設的なやりとりがありました。翻って、議論を封殺する方向で淡々と議決のみされることの多い佐倉市議会の委員会他の会議体を思い、暗澹たる気持ちになったものです。
市民の方々が佐倉市政を我が事として考え、アクションを起こすことにより、その集団の中から「市民の代表」が育っていくこと。その流れが、民主主義における本来のあるべき姿のはずです。
先にお伝えしたようなたくさんの会合で、私はその萌芽を感じ取りました。
佐倉市議会は、そういった方々によりいろいろな意味で刷新されるべきであるし、それは皆さんの振る舞い一つで可能です。
本稿を読んだ方のうち、「佐倉市について」を考え、行動を起こすきっかけが得られた方が一人でもいるならば、それに過ぎる喜びはありません。
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